狂牛病パニック

食の安全についての話題なので、内容はちょっと辛口です
2001/1 作製
< もくじ >
ドイツでも狂牛病に感染した牛を発見
原因は飼料
スーパーの食肉売り場
エコショップの食肉
それでもやっぱり肉を食べる?
ドイツでも狂牛病に感染した牛を発見
16頭:ドイツで発見された狂牛病感染牛の数(2000.01.17現在)
狂牛病と言えばイギリスが有名ですが、ドイツでも2000年暮れに感染した牛が発見されて大きなパニックになっています。イギリスやフランスに比べると感染した牛の数は3、4桁少ないのですが、これまで『ドイツ産の牛は安全』という神話があっただけにショックが大きかったようです。まず、ブランデンブルグ州で飼われていた牛から発見され、その後バイエルン州の牛からも発見されました。狂牛病は牛の骨髄、内臓、ゼラチン、肉、牛乳、チーズなどを食べることによって人にも感染する可能性があり、有効な治療方法はありません。狂牛病が発見されて、学校食堂や社員食堂では『牛肉を一切使用しません!』という張り紙をするところがあいついでいます。消費者の買い控えもあって国内産牛肉の消費量は急激に半分まで落ち込みました。
原因は飼料
西ヨーロッパの中で狂牛病が大きく広がった原因は、牛の飼料にあるとされています。牛を屠殺して食肉に加工すると、骨や皮など食肉にはならない“不要な部分”がたくさん生まれます。それをまた飼料に加工して牛に食べさせていたので、どんどん狂牛病が広がってしまいました。草食動物が動物性蛋白質を食べさせられ、それも共食いだったのですから何とも不気味な話です。ありがたいことに、ドイツ国内ではそういった飼料は禁止となりました。これまで禁止できなかったのは、それによって不利益になる業界の圧力だったようですが、政治家の重い腰もやっと動いたわけです。

そういう飼料がいつから使われ始めたのか分からないのですが、50年代に農家で働いたことのある友人によると、当時すでに使っていたそうです。『その頃は健康な牛の“不要部分”だけを使っていたけど、今は病気の牛でもおかまいなしに使うのが問題』だと言っていました。どっちも共食いにかわりないと思いますが…。牛がそうなのですから、ブタ、ニワトリ、羊なども同様な餌が使われています。牛以外の肉からは狂牛病は移らないと言われていますが“疑いあり”という研究者もいて安心できません。

狂牛病の検査は、屠殺後に脳髄を採って行われます。どうやら、生きているうちは正確に調べられないらしいです。『疑わしきはすべて処分!』ということで『狂牛病が発見された地域の牛40万頭をすべて焼却処分にする』案が出ています。これには牛を飼育している農家だけでなく、動物保護団体も大反対。いつもはいがみ合うことの多い両者が意見を共にするのはなんとも皮肉な話です。

スーパーの食肉売り場
安全宣言
近所のスーパーの食肉売り場に並ぶ肉です。紙には『このスープ用の骨付き肉は、狂牛病のチェック済み:バーデン・ヴュルテンブルグ州』と書いてあります。今までこんな紙を見たことが無かったのですが、食肉業界の危機感がよく現れています。
姿を消した牛の内臓
ドイツでは牛の胃などの内臓も料理に使われます。しかし、内臓は特に危険性が高いとされているので、一時期店頭から姿を消しました。実は上の写真の骨も、危険性が高いです。狂牛病について食肉売り場の人に聞いたら、憮然(ぶぜん)として『牛乳だって、チーズだって牛からとれるものものだろう? 』言われました。なんだか的外れな怒りですが、売り手側の苛立ちも理解できます。
ハム・ソーセージ・サラミのカウンター
年が明けても騒ぎはいっこうに収まりません。『豚肉のみ使用』と表示された一部のソーセージやサラミに牛肉が使われているのがばれて、また一騒動。動物性食品を食べる時には、それなりの覚悟が必要です。
エコショップの食肉
食肉はエコショップでも買うことができます。小さな店には置いてないことが多いのですが、私のよく行く店では真空パック入りの牛・ブタ・鳥・羊肉・サラミ・ハム・ソーセージ・ラビオリなどが売られています。パックに入れているのは長持ちさせるため。エコロジー農業・畜産をしている農家はまだまだ少数なので、流通量は多くありません。食肉加工所もこの店からは遠いところにあります。そういったわけで、上のスーパーのような量り売りができないそうです。

店の人にエコショップの牛肉に狂牛病の心配はないのか聞いてみました。答えは『ほとんど無い』です。『心配はゼロ』と言えないのにはわけがあります。エコロジー畜産農家は自然の餌だけを使っていますが、狂牛病が大問題になる前に買って現在育てている牛もいるわけです。買う前にすでに感染していたらどうしようもありません。屠殺された牛は狂牛病のチェックをするはずですが“何事にも100%確実なことはない”ということでしょう。

消費者としては最後の頼みの綱がエコショップ。もし、これらの食肉からも狂牛病が発見されたら、世の中何を食べればいいのやら…。この店に来るお客さんを見ていると、子供連れが多いように思われます。問題はエコショップの食品の値段がスーパーなどに比べて1.5から3倍高いこと。健康を求めると家計が圧迫されるのが苦しいところです。
 

パック入りの食肉
生産者、(加工肉の場合は)使われている調味料、(くんせいの場合は)使用された木材の種類まで記載されています。ベーコンなどは発色剤を使っていないので、スーパーに置いてあるものに比べると色が黒ずんでいます。(これだけ健康に対する関心が高まっているのに、まだ発色剤を使う業者がいるのが不思議でたまりません。)
それでもやっぱり肉を食べる?
ドイツ産の牛から狂牛病が発見されたあと、いろいろな人に『それでも牛肉を食べるか?』聞いてみました。その答えの例をご紹介。

パターン1:『もともと牛肉を(ほとんど)食べないので問題なし。』
パターン2:『アルゼンチン産の牛肉を食べるので問題なし。』
パターン3:『自然食品店の牛肉を食べるので問題なし。』

※アルゼンチンの牛は本来の自然の餌を食べているので、狂牛病にはならないと言われています。
※自然食品店に並ぶ牛肉も、自然の餌を使って飼育された牛ということになっています。

面白いのは『狂牛病が見つかったから、牛肉は食べない。』という答えがなかなか返ってこないこと。ドイツには日本と比べてベジタリアンが多くいます(肉を過剰に消費する社会の反動でしょうか?)。それ以外の“肉を食べる人”は狂牛病によって将来的に食生活を変える気はあまりないようです。

食肉検査場に勤めている人の打ち明け話によれば、今の一般の食肉は“食べるのに適さないもの”なのだそうです。“安く・早く・手間をかけず・薬品を使い・経済的に多量生産される食肉”が健康にいいとはとうてい思えません。巨大な産業となった食肉業界と飽食に明け暮れる人々。狂牛病は“大量に食肉を生産”し“過剰に肉を消費する”現代ヨーロッパ社会に対する警鐘のように感じられます。

食肉生産者には別の言い分があるはずですが、今回は消費者の立場からドイツの狂牛病と食肉消費の話題を取り上げました。

 
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